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2012/05/05『坂道のアポロン』レビュー 純真な青春だなあ。

坂道のアポロン 第1巻 Blu-ray 【初回限定生産版】
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恐らく、日本では滅多に見ない本格的なジャズアニメ。『けいおん!』以降、演奏と映像が合致していることが一つの義務となった今、ジャズをアニメでやるというのは大変な作業だと思う。ジャズはインプロヴィゼーション(即興)が命なので、楽譜通りには行かない。その音を録っている映像を元にアニメを作っているのだろうが、苦労が知られる。

さて、ジャズがクラシックとなって久しい。有名なジャズミュージシャンは現れず、ジャズの専門雑誌は廃刊され、バーや居酒屋で聴きたくもないジャズが有線で流れている今、若い人たちはジャズに興味を持っているのか?
 
さて話は本題へ。舞台は長崎・佐世保。ジャズがクールでスウィングしていて、天才たちがばりばりの現役だった頃の話。日本では団塊の世代たちによる学生運動(全共闘運動)がどんどん過激になって行く前の、1966年頃の話。
 
日本では、ジャズは学生運動と密接に結びついている。彼らにとってジャズとは深い思惟を誘うもので、知的なファッションだった。 佐世保をはじめ、沖縄、神戸、横須賀などは米軍基地の影響もあって、生演奏のジャズが特に盛んだったのだろう。恐らく、優れた演奏者は何人もいたはずだ。
 
千太郎は一人、「バチ」を持ってリズミカルにドラムを演奏する。クラシックしかやったことのない主人公の薫は千太郎に無理矢理引き込まれてジャズピアノを演奏することになる。千太郎の幼なじみの律子に恋をした薫と、他の女性に心を惹かれる千太郎。その後、四角関係にもつれ込んで行ってしまう。 ジャズを軸として展開される恋愛青春ドラマ。
 
さてさて、若い人たちに共感を呼ぶことが出来るのだろうか、と思ってみていたら、案の定、純真で素朴なドラマになっていた。かつて10代の皆さんのお祖父ちゃん、お祖母ちゃんは、こういう青春を送っていたのだ。
 
フジのノイタミナ枠は、普通にドラマ化してもいいんじゃないか、アニメである必要はないんじゃないか、というものが多い。今回の『坂道のアポロン』も良い例だが、おそらく演じる役者がいないのだろう。
 
アニメの出来としては、原作にかなり忠実に作られている。特にジャズが入ったことで、より躍動的になった。こんな素朴な時代があったんだと郷愁の思いに駆られてしまうが、ジャズが生き生きとしていた時代、文学や思想や映画、ジャズだけではなくロックやクラシックまで、全てが輝いていた時代に憧れを抱いてしまうのは、現代に英雄がいないことの裏返しだろう。
 
ロックは良くも悪くもオアシスの解散と共に終わった、ポップはマイケル・ジャクソンの死で終わった、思想はジャック・デリダの死で終わった、文学や映画は風前の灯火にある。
 
時代は混沌とし、先行きは不透明で、若者たちは漠然とした不安に駆られている。『坂道のアポロン』は、そういうノスタルジーを知るには、とても良い作品だ。 ちなみに原作は小学館漫画賞を受賞した作品。とても良い作品なので目を通して頂きたい。

 

坂道のアポロン 1 (フラワーコミックスアルファ)

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